“宮中料理“とは、おもに朝鮮時代の王族が食べる日常の食事や国主催の大規模な宴会で出されていた、宮中で作られていた料理のことです。現在では韓国料理の一部となり、宮中料理の専門店などで味わうことができます。王族が食べていたとあって贅を尽くした豪華な料理が多く、韓国を代表する最高峰の料理とされています。
韓国全土から献上された食材を用いて作る、韓国最高峰の伝統料理 宮中(宮廷)料理
宮中料理の概要と特徴
陰陽五行の理論に基づいた究極の韓国伝統料理
日本で“宮廷料理”という名称で知られている宮中料理は、韓国語で“クンジュンヨリ(宮中料理)”、または“クンジュンウムシク(宮中飲食)”とよばれています。おもに朝鮮時代(1392~1910年)の宮中で作られた料理のことを指し、王や王妃、または王の一族が食べていた日常の食事と、国主催の大規模な宴会で出されていた各種料理とに大きく分けられています。
宮中料理はいずれも韓国全土から運ばれてきた進上品や旬の素材を用い、手間暇をおしまずていねいに時間をかけて作られていたといいます。王などの健康を考え、栄養に偏りがないよう配慮されていたのはもちろん、中国から伝わった陰陽五行の考え方も宮中料理の基本として取り入れられています。陰陽五行の考え方とは、この世の森羅万象を木、火、土、金、水の5要素になぞらえるもので、そのすべての要素がバランスよく整っていることをよしとします。料理の場合においては、青(緑)、赤、黄、白、黒という5つの色合い、酸味、苦味、甘味、辛味、醎(かん)味(塩辛さ)という5つの味を、料理に反映させることが求められました。バランスのとれた食事によって、料理を食べる人の健康を正常な状態に保つという意味合いがあります。
王らが食べる宮中料理に韓国全土からの進上品が使われていたのは、各地方の名物が食卓にそろっていることをもって、統治する地方の豊かさ、すなわち政治が地方のすみずみまで行き届いていることを判断していたとされています。
現在の韓国ではとうがらしを使った料理が多く見られますが、宮中料理にはとうがらしを使った料理がほとんど見られません。これは朝鮮半島へのとうがらし伝来が16世紀後半から17世紀初頭と遅かったためで、そのころには宮中料理の形式がある程度固まっていたことが理由にあげられます。また宮中料理の味つけは薄味を基本とし、素材の味を生かして作るという特徴があります。そのため、現代まで伝えられている宮中料理の多くは、とうがらしを使わないあっさりした味のものが多いです。
代表的な宮中料理
今もなお食べられている代表的な宮中料理の数々
現代に伝わる宮中料理は幅広く、粥、麺、煮物、蒸し物など多岐に渡ります。その中でも象徴的な宮中料理として伝えられているのが、おもに宴会食として作られていた料理の数々です。代表的な宮中料理には「クジョルパン」「シンソルロ」「タンピョンチェ」などがあります。
クジョルパン
5色がそろう鮮やかな一品
クジョルパンは、“クジョルパンチャンハプ(九折板饌盒)”とよばれる、8角形の器に8種類の具を盛りつけ、中央に配した小麦粉を薄く焼いたクレープのような皮で包んで食べる料理です。8種類の具には、千切りにしたきゅうりやにんじん、細切りにして炒めた牛肉やしいたけ、黄身と白身を別々に焼いた錦糸状の卵などが用いられ、陰陽五行の考え方に基づき、青(緑)、赤、黄、白、黒の5色がそろうように仕上げられた料理です。
シンソルロ
王族の口をよろこばせる鍋料理
シンソルロは、中央に炭火を入れる穴の空いた鍋“シンソルロ(神仙炉)”で作られる鍋料理です。代表的な具としてはジョンがあり、白身魚や牛の内臓、細ねぎなどの具に小麦粉と溶き卵の衣をつけ焼いたものです。これを短冊形に切りそろえ、また同じ形になるようていねいに切りそろえられたにんじんや大根といったの野菜、はまぐり、あわび、エビなどの魚介類を彩りよく盛りつけ、炭火の熱で煮ながら味わいます。たくさんの贅沢な具材を用いて作られる鍋で、宮中では“口をよろばせる料理”という意味の“ヨルグジャタン(悦口資湯)”という別名でもよばれていたといいます。
タンピョンチェ
公平さを象徴する和え物
タンピョンチェは、緑豆のでんぷんをゼリー状に固めた“チョンポムク”と、各種野菜、炒めた牛肉、のり、錦糸卵などを酢じょうゆで和えた料理です。野菜は、セリやほうれん草などが用いられ、軽くゆがいてからごま油と塩で下味をつけてから和えられます。タンピョンチェという名前は、どちらにも偏らないという意味の「蕩蕩平平(タンタンピョンピョン)」という言葉に由来しているといわれ、宮中では公正さを象徴する料理として好まれていたといいます。
宮中で働く人々
王族の日常食と国主催の宴会料理とでは、同じ宮中料理といっても料理人が異なっていたといいます。王族が日常食べる料理は、“チュバンナイン(厨房内人)”とよばれる女官たちが作り、宴会料理は“テリョンスクス(待令熟手)”とよばれる男性料理人が作っていたそうです。日本で宮中料理を有名にした韓国ドラマ『宮廷女官 チャングムの誓い』を例に取ると、主人公のチャングムら女官たちがチュバンナインであり、チャングムのよき後見人であったカン・ドックが宮中の宴会料理を作るテリョンスクスに当たります。チュバンナインの中でも責任的立場にある女性を“サングン”(尚宮)とよび、料理の統括をする“チュバンサングン(厨房尚宮)”、鍋料理をその場で調理する“チョンゴルサングン(煎骨尚宮)”、毒見をする“キミサングン(気味尚宮)”など、役割ごとにサングンがいたといわれています。なお、チュバンナイン、テリョンスクスともに、朝鮮時代後期には50名もの人が働いていたとされています。
宮中料理と韓定食の違い
現在の韓国で代表的な宮中料理を食したい場合は、宮中料理の専門店か、漢字で「韓定食」と書く“ハンジョンシク”の専門店で味わえます。ただしハンジョンシクは、宮中料理を基本に各地方の郷土料理もメニューに加えており、ひとつのお店でさまざまな料理を味わえるのが特徴です。なおハンジョンシクと名のつく料理は多種多様で、食卓を埋め尽くすほど料理の並ぶハンジョンシクもあれば、ごはんと汁物におかずが数品つくだけの簡素なものもハンジョンシクとよばれています。一般的に宮中料理を含んだ料理は高級店で出されることがほとんどです。最近日本でも宮中料理を提供するお店が増えており、東京では新大久保の専門店や白金高輪にある「高矢禮(ゴシレ)」が有名です。



